人気ブログランキング | 話題のタグを見る

生まれたときから・・・ 少しふしぎな歯小説
by sincebirth


Page 305~A Girl's Trouble

茜はいつものように、歯科医院での仕事をこなしていたのである。
もう春休みになったこともあり、学生の治療が増えているわ。
普段とは違い、午前中からも、学生の患者の予約が沢山入っている
ような状態であった。

やはり新学期が始まるまでに治療を終わらせようとする学生が多いのかしら?
この時期になると、新しい歯が入れられたりしてそろそろ治療も終わり?
というような患者さんが多くなってきていた事も事実であった。
小学生や中学生の患者さんは、差し歯やブリッジが始めて入れる患者さんも
多い気がするわ。そんな患者さんの場合、違和感が大きく戸惑う子も多い。
今、治療を終えた中学生の女の子も、右下奥歯のブリッジを入れたばかりだわ。
4本の歯が連結されたブリッジは、違和感を結構感じていたみたい・・・
もちろん、調整を終えて噛み合わせは問題が無かったんだけど・・・
ふと、茜はそう思いながら、次の患者さんを迎える準備をしていたのであった。

そして、患者さんが診療室へ入ってくると、花粉症なのかしら?
マスクをしたまま診療台へ座った彼女は中学生の女の子であった。
マスクを外すと先生がやってくる。先生が治療希望を記載した用紙を
見てから、検診を始めると、その少女はハンカチを広げ先生に見せていたのである。
ハンカチの上には人工歯が置かれていた。前歯4本が連結されたクラウンだわ。
茜も近くで見ていると、先生は人工歯を受け取り、口元の検診を始めていたのである。

そして、レントゲン撮影を行い、根の状態を確かめる。
ようするに、人工歯が外れてしまったらしいわ。4本の歯が連結されているような
クラウンの場合、そう簡単に外れないわ。そして外れてしまうような場合、
根の部分が傷んでいることが多いのも事実である。しかし彼女の場合、
クラウンだけが外れており、根に入れられているコアはしっかりと付いている状態であった。
検診の結果、根の部分に異常はありませんね。
先生はレントゲン写真を見ても、虫歯や破切も見られずに、見た目も特別おかしくない
コアを見ながらそう説明していたのである。

そして、受け取った人工歯を見てみると、いわゆる保険で作っているレジン前装冠であった。
すでに、変色もあり、わずかな部分ではあるものの、レジンが削れ裏側の金属が
見えかけているような状態である。先生は、このクラウンを入れることは出来ますが、
作り直したほうがいいですね。そう説明していたのであった。

幸い、母親と一緒に来ていた彼女は、待合室で待っていた母親が診療室へ呼ばれていた。
先生は、母親にも歯の状態を説明すると、保険での治療を行うか?
自費での治療にするかを説明しながら聞いていたのである。
母親も最初、保険でやってもらうつもりではあったものの、取れてしまった娘の差し歯を
見ていると、変色も酷く、一部分が削れ金属が見え始めてしまった差し歯に、
やはり自費治療じゃないとだめかしら?そう思っていたのである。
事実、母親の口元には、セラミックと金属で作られた差し歯が入れられている状態である。
先生に、メタルボンドでの治療をお願いすると、母親は、再び診療室を後にしていたのである。

そして、いよいよ治療が始められていたのである。
取れてしまった前歯の土台部分には接着されていた接着剤が付着している。
キレイに磨きながら古い接着剤を取り除いてゆく。そして磨き上げられると
キレイな状態になった土台が目立っている状態であった。
前歯の両脇の犬歯もすでにクラウンが入れられているわ。
これもレジン前装冠ね。それでもまだそれほど古くないのかしら?
前歯の差し歯と違い、まだキレイな状態を保っていたのである。

先生は、印象トレーを口元へ入れるとギュっと押し付けていた。
新しい歯を技工するための印象である。そして数分間の間、
印象トレーが入れられていた彼女の口元を茜は確かめると、丁寧に
トレーを外していたのである。先生は再び、外れてしまっていた差し歯を
仮付けしていたのである。あまりキレイな状態では無かったものの
とりあえず、慣れている差し歯を仮歯のかわりに使っていたのである。
しっかりと固定されると、茜が歯をキレイにしていたのである。

この子は、全部保険治療だわ。奥歯には無数の銀冠が入れられていたのであった。
茜は、クラウンと歯茎の付け根部分を集中的にキレイにしてゆく。
どうしても、虫歯になりやすいのよね。まだ虫歯が再発していないと
いいんだけれど・・・ そう思いながらキレイにしてゆくと、最後に、
クラウンの噛み合わせ部分をキレイに磨き上げていた。
磨き残しがあり、汚れていたクラウンも丁寧に磨かれると、キラキラ輝いてきたわ。
茜は、口元を見ながらそう思うと、口をすすいでください。
そう言っていたのである。

そしてキレイに磨き上げられると、今日の治療は終わりです。
次回、前歯に新しい歯が入ります。そう説明されていたのであった。
茜は、この子も新しい歯が入れられるのね。でも取れてしまった保険の歯も
結構使っていたみたいだし、根の部分が虫歯になってしまう前でよかったのかも?
下手をすると、歯茎と差し歯の間から、虫歯が再発し、最悪、根が駄目になって
しまうこともあるわ。事実、茜がそんな状況で現在は、前歯を抜歯され
ブリッジになってしまっていたのである。
茜の場合、差し歯での生活も長かったし、すでに新しいブリッジにも
慣れていたこともあり、あまり違和感はないわ。それでもブリッジだと
普通の差し歯より更に弱くなっているのよね。実際、食事の時も
かなり気を使ってしまうわ。前歯ではあまり噛み切ることをしなくなっていたのである。
もちろんやわらかい食べ物は問題ないわ。でも硬いものは、怖くて
前歯では噛み切れないし・・・ 最初のうちは戸惑いもあったけれど、
慣れてしまうと自然と気をつけるものね。いいのか悪いのか ふと
そんな事を思っていた茜である。

そして、少女を診療室から送り出すと次の患者さんの準備を始めていたのであった。
by sincebirth | 2007-03-23 01:49 | Final Care
<< Page 306~Metal ... Page 304~Rina&#... >>